アニメな半生記 → 現役アニメーター時代編

7・アニメーター、5つのタイプ

入社して二年が経ち、三年目に入った頃には、すでに数人の仲間達が自分の目指す方向性に応じて、日本アニメーションやサンリオフィルム、オープロダクションなどに移籍していった。こればかりは仕方のないことである。

その穴を埋めるべく、新人ばかりで始まったスタジオカーペンターも、ついに第二期の新たな新人を採用することになった。その後、毎年、数人ずつの新人が入ってくるようになり、カーペンターもやっと、作画監督、原画マン、動画マンのラインが揃い、本来あるべきスタジオとしての態勢が整っていった。

ここで、何人かの同期生や後輩達の動画マン時代のエピソードを紹介して、アニメーターを典型的ないくつかのタイプに分類してみたいと思う。

 

@「間接的自己主張タイプ」

同期のA君はとっても寡黙な大人しい青年だった。小柄で髪の毛をのばしている上、声が高かった為、女性に間違えられることがしばしばあった。

彼が友人のアパートに遊びに行ったときのこと、そこの大家さんが「女性を連れ込んじゃだめよ」と怒鳴り込んできたことがあったそうだ。しかも、悲しいかな、否定してもすぐには信じてもらえなかったようだ。

アニメでは、歩きや走りのアクションを描く時に「上下動」をつけることが鉄則なのが、彼自身の動きにはそれがあまり感じられず、音も立てずにスーッと移動するので、いつしか彼の動きは「上半身不動走法」と呼ばれるようになった。

彼は見かけによらず、アメリカンコミックスのヒーローのようなマッチョなキャラクターを描くのが得意だった。実際に、アメコミやヒーロー人形をたくさん集めており、その知識は相当のものだった。また、ある時期、小さなキューピー人形の改造に凝っていたことがあった。キューピー人形をたくさん買い込んで、それにパテをはったり色を塗ったりして、バットマンにしてみたりスーパーマンにしてみたりするのである。その腕はプロなみで、恐らくマニア(どんなマニアだ?)が見たら相当な値をつけるのではないかと思ったものだ。後年そのようなものが実際に店頭に並ぶようになったが、その遥か前の話なのである。できあがった人形はみんなに見せるというより、さりげなく机に飾っておき、みんなが気付いて騒ぎ出すのを待っていると言ったタイプなのだ。

 画力は抜群にあるのに自己アピールを間接的にしかしないためか、作画監督にはなかなかなることはなく、今でもベテラン原画マンとして頑張っているようだ。

アニメーターには結構この大人しい目立ちたがり屋さんが多いのだが、このような人たちを「間接的自己主張タイプ」と名付けたいと思う。

 

A「真面目コツコツ出世型タイプ」

 カーペンターの後輩であるB君の例は、今後アニメーターを目指す人にとって貴重な教訓を与えてくれるだろう。

 彼は毎朝、誰よりも早く出勤して、まず三十分間は人物画の本の模写をするのを日課としていた。主にA.ルーミス著の『やさしい人物画』という本だった。実はこの本はアニメーターのバイブルとして有名な本で、多くのアニメーターが「人物画の勉強にはこれが一番」という高い評価を下している一冊なのだ。

 つねにオーバーアクションの彼は、私が「偉いね」と誉めると、大袈裟な身振りで照れながら「いやー、自分はまだまだですから」と謙遜したものだ。また、休日出勤もよくして誰よりもよく働いていた。もちろん収入のためということもあっただろうが、早く上手くなりたいという必死の思いが感じられた。休日出勤のことを誉めると「自分は蛍光灯の光がエネルギーですから」と言って、動画机の透写ガラスから放たれる光を両手で自分に浴びせるようなしぐさをして照れていた。

そんな彼だから、入社当時はそれほどでもなかった画力もメキメキとついていき、やがて原画マンになると、その仕事振りが評価され、OVAの『湘南爆走族』シリーズで作画監督補佐から作画監督になっていった。後年、劇場作品『(新)銀河鉄道999』の作画監督を務めるまでに昇りつめたのだ。 まさに「真面目コツコツ出世型タイプ」と言えるだろう。

 

B「タップ一本、渡り鳥タイプ」

 同じく後輩のC君は、B君とは反対にいつもおしゃべりばかりしていて、なかなか仕事に取り掛からない困ったチャンなのだが、いざ取り掛かると集中して一気に上げてしまうタイプだった。

 性格のラフさが反映してか、動画の線がなかなかきれいにならなかった。 動画マンはクリンナップと言って、線をきれいに仕上げなければならないのだ。ほとんどファッションには気を使わず、風呂も限界がこないと入らない。 無精髭は伸ばす。冬は布団を敷かずこたつで寝る(これは私もそう)。趣味はプロレスとプラモデル。人を面白おかしく中傷するのが得意。当然の結果として女の子からは面白い同僚としては見られても、男として見られることはなかった。

 動画を引く線は、とうとうきれいにならないまま、彼は原画マンになった。アクションにはいい感性を持っており、原画マンになって初めて力が認められる、根っからの原画マンタイプだったようだ。

 原画の線は下描きが残っていてもいいし、きれいである必要もないため、ラフ線にはますます磨きがかかり、彼の描く原画は周りから、動画マン泣かせの「野獣原画」と呼ばれるようになった。

 カーペンターには気の合う仲間がいたから良かったのだが、彼は外に出てからは何かと人と衝突することも多かったらしくスタジオを転々と渡り歩き、今に至っているようだ。「タップ一本、渡り鳥タイプ」の例である。

これまでの3人がどちらかと言うと「陰」であるのに対して「明」のタイプを二つ紹介しよう。

 

C「明るい上昇志向タイプ」

 後輩のD君は社交的でそれなりにファッショナブル。基本的に明るく爽やかで良いのだが、若干プライドが高いのか、動画をチェックして間違いを指摘すると「分かっていたのに間違えてしまいました」というリアクションをすることが多かった。

 常にグループの中心にいたがるのだが、そのせいで浮いてしまうこともしばしば。アニメの設定資料や絵コンテの蒐集に熱心で、動画机の下や棚の上は、それらの資料でいっぱいだった。私が描いた修整の絵までが大事に取っておかれていたのにはまいった。

彼のいいところは、単に集めるだけではなく、いつの日か、こういう設定を作る側に回るぞ、という明確な目標を持って努力していったことだろう。やがてカーペンターを出たあと、彼はテレビシリーズの「YAWARA」で作画監督として活躍するようになった。彼のような存在を「明るい上昇志向タイプ」と名付けたいと思う。

 

D「努力と根性タイプ」

 最後に女性の例を一つ。仕事の関係で出入りをしていた別のスタジオにEさんという元気で明るい女性がいた。行くたびに見かけるだけで、実は口をきいたこともないのだが、スタジオ内でも目立つ存在らしく、他の人から彼女のことは色々と耳に入ってきた。中でも、昼休みの彼女の行動は特筆すべきエピソードである。

 昼休みの時間になって先輩達が食事に出ていくと、彼女は先輩達の「机巡り」をすると言うのだ。先輩の原画マンや作画監督の描いた原画をじっくりと見て、タイムシートに書かれたアクションタイミングを確認して歩くのだそうだ。誠に勉強熱心と言うしかない。貪欲なまでの探究心は大きく彼女を成長させ、やがて、スタジオジブリの「紅の豚」や「千と千尋の神隠し」の作画監督をするまでのトップアニメーターになっていったのだ。彼女の前向きな姿勢と努力はぜひ、若い人たちに見習ってもらいたいと思う。名付けるならば、月並みですが「努力と根性タイプ」でどうだろうか。

以上、5つのタイプでアニメーターを括ることはもちろんできないが、どれもが代表的で典型的なタイプであることは間違いないと思う。

アニメーターには変な人たちや面白い人たち、そして何を考えているのか分からない人達がたくさんいるのである。

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