アニメな世界事情
アメリカ

さて、アメリカである。この国のアニメを語りだしたらそれだけで一冊の本になってしまうので超要約させていただく。一言で言えば、ディズニーが中心となり、その制作手法を世界のスタンダードとして先頭を走ってきた国である。『ポパイ』のフライシャー、『バッグスバニー』のワーナーブラザーズ、『トムとジェリー』のMGM、『近眼のマグー』のUPAなど、個性的なライバルをやや見下ろしながら、ディズニーは世界のアニメーションリーダーとして君臨してきた。そのエンターテインメントの作品群はまさにアメリカそのものを象徴している。

一九三七年、世界初の長編カラーアニメ『白雪姫』(上写真)以降、『ピノキオ』『ダンボ』『シンデレラ』『眠れる森の美女』『不思議の国のアリス』など世界中の子供たちに夢を送り続けてきたディズニーだが、ディズニーの死後(一九六六年)、しばらくの間、低迷期を迎えることになる。しかし一九九〇年以降『リトルマーメイド』『美女と野獣』『アラジン』『ライオンキング』(左写真)などのヒットで再び黄金期を迎えるが、一九九五年の『ポカホンタス』を機に再び手描きのアニメーションが低迷するようになる。

 同年の公開で大ヒットした世界初のフル3DCGアニメ『トイストーリー』はピクサー社と共同制作したエポックメーキングな作品であったが、ディズニーはすぐに3D路線にシフトしたわけではなく、他社の追随に慌てて取り組んだ感がある。

アニメにおけるその後のヒット作を見れば『バグズ・ライフ』『トイストーリー2』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』(左写真)と、それらが実質上はピクサーが制作した3DCGアニメだということがよくわかる。ディズニーにとってはピクサー社あっての3DCG路線だったのである。

ピクサー社とは契約上かなり揉め事が多く、両社間の契約が切れて初めて自力で作ったのが二〇〇六年の『チキンリトル』だった。本作は全米興行収入で2週連続首位の好成績をあげ『シュレック』などのドリームワークスとも肩を並べる底力があることをかろうじて示した。しかし結局のところ同年、ピクサー社はディズニーに買収され完全子会社になった

 2Dから3Dへ完全移行したかに見えたディズニーだが、手描きのアニメ『ザ・フロッグ・プリンセス』を二〇〇九年に公開するとの発表があり今後の動向が注目される。

ディズニーは最早、世界のトップランナーではない。強敵に囲まれて、進むべき方向性すら見失っているように見受けられる。ディズニーがスタンダードだった時代は終わりを告げ、アニメの未来がますます見えなくなってきているのだ。しかし、ディズニーも含めたアメリカ映画が厳然と存在していることに変わりはない。

アメリカのメジャーな映画会社はハリウッドに集中しているため、それらの映画会社の作品は一般にハリウッド映画と言われる。ハリウッド映画の製作費は大作であれば一億ドル以上のものも珍しくはなく驚かされるが、なぜそれほどまでのお金がかけられるのか。アメリカの映画事情とハリウッドの映画システムを簡単に紹介しよう。
(右の写真はアメリカのユニバーサルスタジオでのおばた先生)

アメリカの人口は二億九千万人で、日本の人口、一億二千万人の優に二倍以上ではあるが、アメリカの上映スクリーンは日本の十二倍もある。映画の入場料は日本のほぼ半額であるため映画館に足を運ぶ人の数は日本の五倍に達している。それによって興行収入も日本の五倍となり、製作費が国内の興行収入だけで回収できてしまうのだ。

その上、ハリウッド映画は全世界でのマーケットが約束されており、関連商品やDVDなどの二次利用、三次利用も見込めるので製作費に莫大なお金を投入できるというわけだ。ここでの利益が大きいので海賊版の摘発には必死に取り組んでいる。更にロングセラーのヒット作であれば四次利用、五次利用も見込めるし、評判が続く限りは続編、続々編を作り確実な入場者が見込めるのだ。

しかも、ハリウッド映画ではプロデューサーの権限が絶対的であるため、監督が「こんな映画を作りたい」と言っても、それが売れる内容でないかぎり許されない。極論すれば、ハリウッド映画の監督は日本で言うところの演出家なのだ。潤沢な予算で海外展開を前提にした綿密な計画のもと、最高の脚本家、監督、俳優を使い、美術やCGもチープ感ゼロの見ごたえあるものに仕上げればヒットしないわけがない。

このようなモンスターに対して製作費が十分の一程度の日本映画はどう対抗すればいいのか。もちろんお金をかければいいというものではなく、質が問題なのだが、お金がなければいいスタッフや俳優も集まらず、質がよくても宣伝にお金がかけられなければお客さんが入らないのも現実である

昨今は邦画が好調と言われているが、ヒット作はほとんどテレビ局が製作、出資しているものばかりだ。邦画の復活は大ヒット作を次々と企画し、CMなどで宣伝しまくったテレビ局の感性、戦略に負うところが大きい。邦画だからこそ日本人の感性を的確に捉えた映像作りが可能なのであって、それをテレビ人がやってのけたことは映画人に対する警鐘とも言える。

日本のテレビアニメはチープでありながら数多くのアメリカのファンを持つに至っている。北米最大の日本アニメコンベンションである「アニメエキスポ」(右写真)には毎年三万人の日本アニメファンが集う。その要因はキャラクターの魅力と奥深いストーリー、クールな演出にあると思われる。『ハガレン』や『NARUTO』『ブリーチ』は大人気だ。ただし日本ではブレークした『ガンダムSEED』や『名探偵コナン』の人気は低調で、日本ではあまり話題にならなかった『サムライチャンプルー』や『ウルフズレイン』が安定した人気を得ていて、日米の嗜好の違いが垣間見られる。

 アメリカでも日本のテレビアニメは多数放送されている。しかしテレビアニメに対する規制が厳しいため、かなりの改変が行われているのだ。ヌードや暴力的な表現が取り除かれ、場合によっては全く違う作品になってしまうこともある。

 アメリカにおける「ジャパニメーション」という言葉はもともと動きの少ない粗悪な日本製アニメにつけられた蔑称だったが、一九八八年、大友克洋監督の『AKIRA』の技術レベルの高さとアメリカのアニメにはないストーリーの斬新さが衝撃を与え、更に一九九五年、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL・攻殻機動隊』がアメリカでビデオセールス一位になってからは「ジャパニメーション」の定義は、いい意味で大きく変わってきている。昨今は日本人が作った略称「アニメ」という言葉が「ANIME」というスペルで使われている。本来、アニメーションの綴りは、ANIMATIONでありMの次はAだが、そこをEとした場合、日本製のアニメーションを指すことになるのだ。

アメリカでも、宮崎アニメ、押井アニメの人気は高く、『パプリカ』などの今敏監督作品も好調である。エンターテインメントの国、アメリカに媚びる必要は全くない。日本人は日本人にしか作ることのできない作品を作ってこそ世界という舞台で戦うことができるのだ。

 現在、アメリカだけでなく世界中で日本のアニメが数多く放映されているのは、日本側のプッシュというよりは各国からの要望が強かったからである。文化の違いや各国独自の規制によって取捨選択や改変はあるものの、日本のアニメは世界中の子供たちに楽しまれ、彼らの純粋な心に少なからぬ影響を与えている。日本の作り手達はそこにまで思いを至らして「心ある作品」を作ってほしい。誰のため、何のためという原点を忘れてはいけない。それほどまでに今や、日本アニメの視聴者が多いことを肝に銘ずべきである。

目次 次へチェコ