アニメな世界事情
中国

中国は二十世紀初頭よりアニメーションの制作に力を入れ始め、日中戦争の最中一九一年に長編アニメ『鉄扇公主』を生み出し、その後の内戦、文化大革命といった苦難を乗り越え、独自の表現形式を育ててきた。一九六〇年代には水墨画を利用した『水墨アニメ』を製作し一九六一年のロカルノ国際映画祭短編部門で銀の帆賞を受賞している。西遊記を題材に取った一九六年の『大閙天宮』は、世界のアニメ史にその名を刻む作品となった。
 しかし、アニメ産業強国を自負していた中国はその後、アメリカや日本、韓国にその地位を奪われていき、
『ナーザの大暴れ(一九七九年)』(下写真)など優れた作品も作られてはきたが四十年近くにわたり不遇の時代が続いた。人件費のコストが安いため、この間に中国は日本やアメリカの下請け国になり下がってしまったのだ。

中国のテレビでは日本のアニメが数多く放送され人気の上位を占めている。『名探偵コナン』『ドラえもん』などは超人気番組であり、『ドラゴンボール』や『聖闘志聖矢』なども人気が高い。

ただし政府による検閲は非常に厳しく、例えば「ちびまる子ちゃん」を中国に供与するときには、父親が食事中にたばこを吸ったり、まる子が親に反抗的な態度を取ったシーンなどが問題になり、八十話のうち話が放送からはずされた。愛国主義教育の側面から中国の教育・宣伝当局は、日本の歴史アニメや漫画を危惧し「中国の青少年が誤った歴史観に毒される」(中国紙)との警戒感も示している。アニメ関係者の間でも『鉄腕アトム』は一流アニメ、『ちびまる子ちゃん』は三流アニメと分別され、テレビでもゴールデンタイムの外国アニメ放映が制限されている。

規制が厳しい割りに中国は海賊版天国である。正規なライセンスを受けていない違法商品が巷に溢れているため、キャラクターの認知度は図らずも非常に高くなっている。

中国のあるラジオ番組で日本のアニメについて語った中国人の感想が非常に興味深いので紹介しよう

@子供たちに見せられるようないいアニメがない。日本のアニメは面白いが、中国の文化を反映していないからあまり見せたくない(子を持つ母親の意見)。

A中国には独自の文化があるのに、どうしてそれがアニメにならないのか。例えば故事成語を題材にアニメを作ったらどうか(高齢の聴取者)。

B歴史を題材にしたアニメはどうか。私は歴史科をまもなく卒業するが、なんとかしてアニメ産業の役に立ちたいと考えている(女子大学生)。

C日本のアニメが中国に受け入れられているのは、日本の文化が中国から伝来したもので、根が一緒だからだ。だから日本のアニメは純粋な日本産ではなく、我々の文化を基礎にしたものだ(40代の男性)。

いずれも中国四千年のプライドがひしひしと感じられる発言である。

アニメーションが巨大なキャパシティを持った新興産業として見直されている現在、中国政府もアニメ産業の振興・発展を促進する政策を策定し二〇〇五年を「国産アニメーション発展年」と位置付けた。(上の写真は中国国際アニメ漫画フェスティヴァルの様子)

中国国内の最大手アニメ製作会社は意外にも台湾系企業である。しかもその会社を大きく育てた受注業務はウォルト・ディズニー社のアニメ制作業務だった。これまでの中国は安い人件費を目玉にして海外からの受注業務に精力的に取り組むといった状態に甘んじていたが、昨今は国産アニメにも精力的に力を入れ始めている。

中国が自国アニメ育成に力を入れるのにはいくつかの理由があるのだ。中国ではアニメ番組のうち輸入ものは4割以下に抑えなければならないという規制がある常に人気の上位には『ちびまる子ちゃん』など日本の作品があり外国勢が優勢。これ以上、放送枠を増やすには国産アニメを増やすしかないというわけだ

 二〇〇〇年に北京映画学院に全国ではじめてアニメ学部(右写真)が設置されて以来、これまでに全国数百以上の高等教育機関にアニメやデジタルアートの専攻が開設され、数万人の学生が学ぶようになった。しかし、新しい分野であるだけに教育者が不足しており需要の急速拡大に人材の面で追いつけなくなってきている。実は私も中国の大学から教育者として来てほしいとの招聘を二度、受けたことがある。中国は物価が安いので優雅に暮らせるなどと口説かれたもので、もしも独身だったら引き受けていたかもしれない。

中国ではアニメ番組を放映する放送局が急増しているが制作がその需要に追いつかない状況にある。海外からの外注制作分も含めれば今や世界のアニメの三分の一は「メイドインチャイナ」と言われており、量の面では日本やアメリカに肩を並べるアニメ大国になってはいるが質が追いついていない。工業の発展に環境対策が追いつけず、公害が急速に広まっていることが象徴しているように、今の中国は多くの面において暴走ぎみであり、大国であるだけに心配である。 

米国や日本などと比べると、中国産アニメの最大の弱点は、オリジナル作品が不足し、独自のブランドやキャラクターが生み出されていないことだ。そのため市場競争力がかなり弱く、視聴率も低い。しかし潜在な力を秘めた巨大国家だけに今後の動向が注目される。

中国もまたかつて日本による侵略を蒙った経緯から反日感情の強い国だ。反日感情については、戦争を体験した世代だけが強いわけではなく、驚くべきことに若年層ほど強いという統計もある。これは九〇年代後半に強化された愛国・反日教育の「成果」だという見方が強い。残念なことだが批難しても火に油を注ぐだけだろう(左写真は反日デモ)
 日本は文化を伝授してもらった恩ある国家、中国に対してアニメをはじめとする文化で恩返しをすべき
なのである。文化的な外交と交流で凝り固まってしまった彼らの心のしこりを、時間をかけて取り除いていくしかないの中国で日本のアニメブームが広がるなか、二〇〇七年、青少年の交流を深めるため「日中青少年アニメ・漫画展」が開催されるなど、徐々にだが流れは作られてきている。

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