アニメな半生記 → 現役アニメーター時代編

5・原画マンへの昇格

 アニメーターの主な役割は前にも述べたように、「動画」「動画チェッカー」「原画」「作画監督」の四つとなる。

動画マンはあくまでも原画マンのアシスタントであり、動画チェッカーは動画マンの尻拭いだ。

作画監督は、絵的な面での全責任を負う重要な立場としてやりがいはあるが、現実的には原画マンの尻拭い的な作業がほとんである。そういう意味で考えると、「絵に命を吹きこむ」というアニメーター本来の作業に徹することのできるのは原画マンだけかもしれない。

 私が初めて原画を描かせてもらったのは、東映動画が知恩院から受注した『白道の聖者、善導大師』という宗教アニメだった。社長の大工原氏が作画監督をしたが、原画マンは初心者ばかりだったので、子供だましの、かなりレベルの低い作品になってしまった。クライアントには悪いのだが、原画の勉強の為にやらせてもらったようなものなので、私の経歴には実はなかったことにしている作品である。

その後、テレビシリーズの『魔法少女ララベル』(左写真)をカーペンターで一本作ることになり、これが原画マンとして私の名前がメジャーデビューをした最初の作品になる。

『ララベル』では、作画の参考にするため、おもちゃ屋さんで『ララベル』の魔法のバトンを買った。大抵この手の小道具はおもちゃにすることを前提に玩具メーカーと打ち合わせをしながらデザインされているのでとても役に立つ。私にとってララベルの頃は、まだ原画を描いたり動画を描いたりという、いわゆる過渡期だった。入社後、約一年で原画を描かせてもらえるようになった事は当時としては比較的早い方だった。

 動画マンが原画マンに昇格するのにかかる期間は、もちろん実力によっても違うし、会社の方針によっても変わって来る。昭和三十年代の東映動画では「動画八年」と言われたそうだが、今は一年から三年くらいのようだ。と言うより、三年経っても原画に上がれない場合、自らアニメーターを辞めてしまうケースが少なからずあるのだ。
(右のイラストは小田克也氏が描いた独身時代の妻ゆみ子です)

 私個人としては、職人として動画に徹するベテランがいてもいいと思うし、そういう人がいてこそいい作品ができると思うのだが、今の日本の動画マンの収入では、結婚して子供を育てていくのに相当難しいものがあるのだ。

だから大方、動画マンはその立場をステップに、原画マンを目指すことになる。

タイミングとしては、いきなり「今日から君は原画だ!」と言われることもあるが、普通は「そろそろ描いてみるか」などと言われ、原画の担当カット数を徐々に増やしてもらい、手空きの時は動画で繋ぎながら、だんだんと正式な原画マンになっていくというのが一般的である。ただし、中には描いた原画がひどくて動画マンに戻されることもある。チャンスを生かせるかどうかは、ひとえに日頃の訓練と、チャンスは必ずものにしてみせるという執念だろう。

 ところで、原画マンの収入は出来高制の場合、動画マンの一枚いくらという枚数単価とは違い、カット数単価が一般的だ。ちなみにカットというのは、実写ではショットとも言い、カメラを回し始めてから止めるまでの映像を言う。一瞬で終わるカットもあれば、何十秒も続くカットもあるが平均すれば、だいたい語秒くらいだろう。原画の一カット単価はだいたいテレビシリーズで三千円から四千円くらいだが、これも作品や会社によってかなり幅がある。他にも秒数単価での支払いとか、完成までの期間の長い大作などでは拘束料という名目で、一定の額を毎月支払うといったシステムもある。

 さて、私のことに話を戻そう。

 ララベルの後、大工原社長の作画監督のもとで、『めちゃっこドタコン』、更に『ハニーハニーのすてきな冒険』というシリーズ物でずっと原画を描かせていただき、立場としては完全に原画マンになった。 ただし、やればやるほど原画の難しさが分かっていくだけで、アニメーションの奥の深さにただただ唖然とするばかりだった。

 同じ作品で原画を描いていた仲間に名倉靖博君という同僚がいた。彼はカーペンターの中でどんどん頭角を現わしてきた。立体感ある魅力的な絵が、とても気持ちのいいタイミングで大胆かつ繊細に動くのである。おっとりした心優しい人柄が絵のタッチにも現れており、誰もが彼に一目を置いていた。やがて彼は大抜擢され『とんがり帽子のメモル』のキャラクターデザインと作画監督をやり、その斬新な絵柄と独特の世界観で周囲を驚かせた。東映を去ったあとは『銀河鉄道の夜(グループ・タック製作)』『綿の国星(虫プロ製作)』『天空の城ラピュタ(スタジオジブリ製作)』などで原画を描き、『天使のたまご(スタジオディーン製作)』『どんぐりと山猫(プロジェクトチーム・アルゴス製作)』『紫式部 源氏物語(グループ・タック製作)』『楽しいムーミン一家(テレスクリーン製作)』『メトロポリス(マッドハウス製作)』などでキャラクターデザインと作画監督を務める一方、絵本やイラストの仕事にも精力的に取り組んでいる。

カーペンターの同期では他にも『天空戦記シュラト(タツノコプロ製作)』のキャラクターを作った奥田万つ里や『となりのトトロ(スタジオジブリ製作)』のラクターデザイン・作画監督の佐籐好春などすごい人材が何人も出ている。また、後輩からも劇場作品の作画監督が何人も出ている。アニメ業界はどこまで行っても上には上がいくらでもいる世界なのだ。

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