アニメな半生記 → 現役アニメーター時代編

6・初めての作画監督、そして結婚

一九八二年七月から一九八四年八月まで、全九十五話放映された『Theかぼちゃワイン』という作品で私は始めて作画監督を務めさせていただいた。原作は週刊少年マガジンに連載され、単行本が十八巻まで刊行された三浦みつるが描いた人気漫画である。チビで硬派の青葉春助と、エルちゃんこと巨体でグラマーな朝夏美のちょっとエッチな学園ラブコメディである

スタジオカーペンターで大工原社長の力に頼らずシリーズを受けていこうとした最初の作品である。作画監督に抜擢されたことは光栄だったが、まだまだ実力不足でとても苦しく辛い仕事だった。毎晩十二時過ぎまで仕事に取り組み、へろへろになってバイクで帰るという二年間だった。

なんとかこなせたのは、当時はまだ、総作画監督制度が残っていたためだ。作画監督は一本の作品に数人が配置され、シリーズの話数を数本おきに担当するのだが、シリーズ全体の絵柄を統一するため『Theかぼちゃワイン』には総作画監督がおかれていたのである。原画を修整した作画監督の絵をさらに修整するという役目である。

総作画監督は動画工房という会社のチーフアニメーター、石黒 育氏だった。当時の動画工房はスタジオカーペンターの近所にあったのでレイアウトができあがるといつも石黒氏にチェックを受けに行った。全面的に直されることが多く、ぼろくそに言われながら、ずいぶんアニメの何たるかを勉強させていただいたものだ。作画監督としてテロップに名前は出していただいたが、この作品に関してはすこぶる汗顔の至りである。

私のもとで原画を描いてくれたスタッフは何人もいたが、途中からは後輩の女子三名に落ち着いた。スタッフをまとめあげるという苦労もこの二年間でずいぶんと味あわされた。幸いにも『Theかぼちゃワイン』は人気番組となり視聴率が二十%を越え、東映動画ではそれを祝ってのパーティーまで開かれた。

この作品に入った年、一九八二年十月、二年越しの交際をしていた早原ゆみ子と私は、二十四歳同士で結婚式を挙げた。

彼女にはその前年の末にプロポーズをしていたのだが、彼女のご両親に挨拶に行かなければと思っていた矢先、彼女の父親があろうことか不全で急逝してしまったのだ。

その日は三月九日だった。義父の誕生日もまた三月九日であり、残念ながら義父はご自身の五十五歳の誕生日に亡くなってしまわれたのだ。不思議にも私の誕生日もまた三月九日だった。義父が、若くして可愛い娘の花嫁姿も見れずに亡くなられたことは宿命としてあきらめる他ないが、三月九日が三つも重なった不思議は深い意味を持っていると私は思うのだ。同じ誕生日の私に、愛する娘の全てを託してくれたのだと捉えたい。なんとしても彼女を幸せにしなければと心に誓い同年十月三日、西荻窪の杉並会館で結婚披露宴を行った。ちなみに杉並会館は現在、奇しくも杉並アニメーションミュージアムになっている。

実は貧しかったこともあり披露宴をするつもりは全くなかった当時いろいろと私のことを気遣ってくれた近所の鍵さんという露天商のおじさんに強く勧められて披露宴を決行することになったのだ。鍵さんいわく。

「小幡、貯金はいくらあるんだ」

「八十万くらいあります」

「よし、それなら披露宴をやれ。小幡のためじゃないぞ、先方のお母様のためであり、嫁さんのためだ」

「でも、使い切ったらその後が……」

「男は、やるときゃやるんだ!」

この一言で披露宴が決まった。ちなみに鍵さんは私より十歳くらい年上で独身だった。

披露宴は格安のプログラムで行ったため、ご祝儀がそれを上回り、余ったお金で急遽、箱根への新婚旅行にも行けることになった。

披露宴はお色直しもキャンドルサービスもなしで、食事も一番下のものだったが、友人や知人が盛り上げてくれて感動的な宴となった。グループジョイの新井社長、アニメーター養成講座の月岡貞夫先生、養成講担当の小田克也氏、さらにスタジオカーペンターの大工原章社長にも出席していただいた。

中でも大工原社長はスピーチが苦手だからと言って我々二人のなれ初めを紙芝居にして描いてきてくれ、それをプレゼントしてくれたのだ。まさに生涯の宝物である。(下写真)


 大工原章社長は一九五八年、つまり私が生まれた年に公開された日本初の長編カラーアニメ「白蛇伝」の原画を森康二氏とたった二人で描いた大御所である。その後も東映動画の数多くの長編でキャラクターデザイン、作画監督として活躍され、東映動画の土台を築いてこられた方なのだ。

大胆なアクションを得意とされ作品ごとに新しい絵柄にチャレンジするなど常に開拓精神を忘れない尊敬すべき大先生であった。ご老齢のこともありカーペンターの社長は三年余りで退かれたが、その名は社名カーペンターに今でも息づいている。

二代目の社長には『サイボーグ009・超銀河伝説』『劇場版・千年女王』などのキャラクターデザイン・作画監督を務めた山口康弘氏が就任した。まさに油の乗り切ったバリバリの若手社長のもとでカーペンターの第二期が始まったのだ。

さて、新婚旅行から帰ってきて出社してみると私の机は華々しく飾りつけられており、披露宴の写真やらスタジオのスタッフのお祝いの言葉やらが置かれていた(左写真)。みんなの祝福がとても嬉しかった。

その日暮らしだった自分がアニメーターとして家庭を構えるまでに至れたことは、ただただ多くの方々の支えがあったればこそと感謝し、いよいよ頑張っていこうとの決意を固めた。

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