アニメな半生記 → 講師奮闘編

5・大塚康生(やすお)先生との出会い

 「Y校の講師になって良かった」と思えた事の一つとして、大塚康生先生との出会いがあった。現場時代には全く接触はなかったが、その経歴やら実際の作品に触れる中で「アニメの神様」と崇めていた方なので、個人的には出会いというよりも邂逅と言うべき出来事だと、一方的に思っている。
(下の写真はカリキュラム検討会での大塚先生。後ろのちょんまげの人は板野一郎先生)

 大塚先生は平成十二年度を最後に学校から引退されてしまったが、それまでの十年間、アニメーター科の最高顧問講師としてY校で実際に教鞭をとられていた。

 大塚先生は日本のアニメーション界を代表するアニメーターである。東映動画のトップアニメーターとして、不朽の名作『太陽の王子ホルスの大冒険(一九六八年、東映動画製作)』の作画監督をされたあと東映動画を去り、『旧ルパン三世(一九七一年、Aプロ製作)』で大人の鑑賞にも耐え得る本格的なテレビアニメの基礎を築かれた。

 そしてNHK初のテレビシリーズアニメ『未来少年コナン(一九七八年、日本アニメーション製作)』ではテレビアニメの可能性を最大限に追求し、あくまでも「動かしてこそアニメである」と言うアニメータースピリットの砦を後進に託してくれた。 

 『ルパン三世カリオストロの城(一九七九年、東京ムービー新社製作)』(右写真)は、すでに伝説の名作の域に達しているが、公開当時、どんなに興行成績が悪くとも、魂の入った良い作品は必ず歴史に残ることを証明してくれた。

 その後、大作のメインスタッフとしては『じゃりん子チエ(一九八一年、東京ムービー新社製作)』を最後に表舞台には立たれなくなったが、カッコイイ止め絵で見せる傾向にあるテレビアニメに抵抗し、現場で、そして学校で、動かすことの出来るアニメーターの育成に精力を注がれてきた。

大塚先生のおっしゃる「動き」というのは、単に止まっている状態が少ないという意味ではなく、キャラクターが喜怒哀楽の感情を持ち、その性格と状況を踏まえて生き生きと立ち居振る舞うことを意味する。

大塚先生のポリシーを投入できるのは動画と言うよりも原画教育であり、まともな絵も描けず、アニメはどうして動くのかななどという気持ちで入学してくる学生たちには高度すぎるかもしれない。しかし、大塚先生の精神は、卵から孵ったばかりの雛に相当する学生時代の初期にこそ刷り込んでおくべきだとも思うのだ。大塚先生の授業に何度か立ち合うことで、それは確信できるようになった。

 大塚先生の授業は顧問をされているアニメスタジオのかつての新人が研修の頃に作ったアクションの映像を紹介し、テンションを上げるところから始まる。実作業では原画から動画まで描かせるのだが、一年生を対象とした授業なので学生たちには極力シンプルなキャラクターで動きに専念させる。

 例えば「馬飛びをする二人の子ども」と言うようにお題を与え、描き送り式で原画を描かせていくのだが、動画もままならない一年生に原画を描かせるのだから指導も大変だ。動きを考えさせ、いい所を誉め、直すと良くなる部分を指摘して描き直させていく。この作業の繰り返しの教え方のため、授業時間内には完結せず、結果として意欲のある学生とは、その後も郵送でのやりとりが続く事が何度もあった。まさに、講師としてのあり方まで教えて頂いたようなものだ。

 学校では、ある時期まで、そのようなクリエイティブなアクション教育は外来講師に任せて、内部講師は基礎的な事を中心にパターン教育をしていけば良いという雰囲気があった。「これではいけない!」とアニメーター科の内部講師で話し合いを持ち、結果、大塚先生のポリシーこそアニメ教育のポリシーにしなければいけないとなった。

 その後、大塚先生を交えてのカリキュラム会議を重ね、大塚先生からはその度に貴重なご意見や資料をいただいた。それを踏まえて、課題を改訂するたびに大切な要素を加え、無駄な要素を削除していった。

 また、教育方針として、学生には教わる前に自ら探求する癖をつけさせる為、研究発表会など、否応なく考えなければならない局面を多く持たせるようにもしてきた。そして、それらの成果を作品作りの中で爆発させていくという流れを作っていった。

 本来あるべきアニメーターのスピリット、良心と言うものを教育の中に取り込み、展開していくためには、先ず講師が、いい作品のいいアクションに感動し、それを分析していける目を持たなければならない。その感動を学生に伝えることだけでも大塚先生のポリシーに適っていると思う。そして更に、動かすことの難しさと、それに挑戦していくワクワクするような楽しさを味わわせていければ、あとは彼らの中から湧き出るものが自然と彼らを突き動かしていってくれるのではないかと思うのだ。
(左写真は大塚先生とおばた)

 大塚先生はいつも自然体で飾るところがなく話していてとっても楽しい方である。とにかく話題が豊富で、国際問題にも詳しく、英語や中国語も操るクロスカルチャリストであり、まさに右脳型人間なのだ。何と言っても人間性の素晴らしさは、誰からも好かれる先生のお姿を見れば分かる通りで、ともすれば敵を作りがちな私としては爪の垢でも煎じて飲ませて頂きたいと思っている。まさに天才の名に値する方ですが、絵の上達度は描いた量にしか比例しないという努力推奨派でもあり、実際にそれを実践してこられた方でもある。また、知る人ぞ知る、軍用車両、ジープの研究家、オーソリティーでもあり、同人誌やホームページに講演と、そちらの方でも精力的に活動されているが、その成果はアニメに充分に生かされてきた。

大塚先生の業績や人間そのものを研究している方は、高畑、宮崎研究所の叶精二氏をはじめ多くおられるので詳細は専門家の方々に譲るとしよう。

私はアニメ教育に身を捧げる者として、大塚先生のアニメーターとしての精神を受け継ぎ、学生たちの魂にそれを浸透させていく使命をひたすら遂行していこうと決意したのである。

ちなみに大塚先生は二○○二年に文化庁長官賞を授賞、二○○八年の東京国際アニメフェアにて第四回功労賞を受賞しており、表彰受賞会場ではお祝いの言葉を掛けさせていただいた。また、すでに一線は離れているものの、二○○六年には『無敵看板娘』のエンディングアニメを担当するなど、まだまだお元気だ

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