アニメな半生記 → アニメーターw目指して編

5・仕上げと言う仕事

仕上げというのはアニメの絵作りの中でも最も華やかなフィニッシュワークだ。単純かつ緻密な作業なので、女性向きの仕事と言われており、実際に女性スタッフの多い職種である。現在はほぼ完全にその作業はデジタル化されているが当時はまだ完全にアナログ作業の時代だった。その歴史を留める意味も含めて当時の仕上げ作業について記しておきたいと思う。

 ここでは「グループジョイ」での平均的な一日の仕事内容を紹介したい。先ず、朝は九時少し前に出社し、タイムカードを押す。そしてお茶などを飲みながら仕事に取りかかる準備をする。九時になると朝のミーティングがあり、仕事の優先順や注意事項が申し渡され、時には残業の指示が出される。仕事を選ぶ事はできない。積まれているカット袋の一番上から一つだけ取り、塗り終わったら提出して、次のカット袋を取りに行くのだ。自分の机に戻ると、カット袋から動画を取り出す。すでに動画の黒い線はトレースマシンでセルに転写されている。 それはトレース担当の人により、実線(マシンで転写した黒い線)の補正や色トレース線のハンドトレースが施されている。

当時、トレースは既に機械化されていたが一九六〇年代の後半までは全てが手作業だったのだ。逆に手作業であることを生かして、塗色に合わせて輪郭線の色を変え、とても美しいセル画を仕上げることができたのである。ディズニーの初期の作品などはまさにその典型と言えるだろう。ディズニーでは一九六一年の『101匹わんちゃん大行進』から、ゼロックスによるトレースの機械化が導入された。色トレースの美しさは失われるものの、鉛筆のタッチがそのまま出ることを活かして動画の線をわざと荒々しくして、なおかつ背景の描き方までそのタッチに合わせてしまうところなどは、まさに何でも活かしてしまうディズニーの凄いところだと言える。

 セルを扱うときには手の脂などがつかないように必ず両手に白い手袋をする。また、絵の具の飛び散りに備えて胸当てエプロンを着用する。塗り担当の我々は、そのセルを机の棚に一枚一枚、番号順に並べていく。棚は乾燥棚と呼ばれる背の高い物で、数センチ間隔で仕切られ、何十枚ものセルを重ねることなく置けるようになっている。そして、塗った絵の具を早く乾燥させるためのライトが、棚に向かって設置されている。

さて、セルを並び終えると、色指定表、もしくは動画に直接書き込まれた色指定に従って色を塗っていく。先ずは、目の前に並んでいる百数十本のアニメカラーの小ビンの中から必要な色を取り出す。最初に塗る色を決めたら蓋を開け、かくはん棒でよくかき混ぜる。しばらく使ってない絵の具は分離した水が上の方にたまってしまうからだ。効率のよい仕事をするためには、絵の具の濃度を見極める必要がある。薄すぎず、固すぎず、かき混ぜてから、かくはん棒ですくいあげた時、トローッと滑らかに落ちる程度が良いのだが、これは経験で掴むしかない感覚である。固い場合はスポイトで水を足し再び良くかくはんする。薄い場合は大ビンから濃い絵の具を注ぎ足して調整する。いずれにしてもかくはんは徹底して行わなければならないのだ。特に紺や紫系はむらになりやすいので要注意である。

使用する筆は中太の面相筆一本で、どんなに細かい部分も小筆など使わず、筆の先を使って仕上げる。紙と違ってセルは染み込まないので、絵の具を置いて伸ばす感覚で、他のセルや背景の色が透けないように分厚く均等の厚さで塗らなければならない。

セルは一枚一枚仕上げていくのではなく、赤なら赤を先ず全て塗ってしまい、一巡したら次の色に移る方法を取る。絵の具は速乾性で、塗ったエリアの縁の方から乾いていくので、次の色をそこに重ねながら塗っていく。

基本的に濃い色から先に塗る、もしくは面積の狭い部分から先に塗るという二つの方法を組み合わせて作業していく。塗った絵の具に気泡が出来てしまった場合はセルを持ち上げて下側から鼻くそを飛ばす時のように指でペシッ、ペシッとタッピングすると気泡はすぐに消えてくれる。

絵の具が塗るべきエリアからはみだしてしまっても慌てることはない。少しのはみだしなら乾いたあと竹べラで削りとればいいし、大きなはみだしの場合は、とりあえず絵の中の方へ親指か人さし指で押し込んで、残った部分をあとで竹べラで削るといった方法を取る。そのために、聞き手の親指と人さし指、人によっては中指まで、白手袋の指先をちょん切っておくのが普通なのである。

このような伝統的な技術も、仕上げが完全にデジタル化されてしまった今では、必要ないものになってしまったかと思っていたが、現在、セル画アートとして販売用のセル画を作っている会社では、技術の継承は細々となされているようである。

アニメ仕上げの奥深さを知りたい方には、アニメ仕上げに半生を捧げてきた保田道世さんをドキュメントした本「アニメーションの色職人(柴口育子著・徳間書店刊)」をお勧めしたい。

次へ